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動物園での「種の保存」に思うこと

Category : 雑記

キロルとミルクのこと
あの日から数日経ちましたが
どうにも気分が晴れません

私たちが見てきたものは
一体何だったのだろうか

野生動物のことだから
誰かを責められるわけでもないよ

でも…さ
一つの尊い生命が失われたのは事実

そんなときに
胸に刺さるツイートを見かけました
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「繁殖のためだけに生まれてきたわけではないだろうに」

ご存知の通り
動物園の存在意義の一つに「種の保存」があります

動物園や水族館は地球上の野生動物を守り
次の世代に伝えていく責任がある
そのために日本のみならず
世界の動物園との間で飼育動物の血統情報を共有し
遺伝的多様性を維持しつつ
個体数の増加に繋げるための活動を行なっています

ただ…
その保護対象となる動物種は全ての種ではなく
ヒトが選んだ種
国内で飼育している希少動物を11の群に分け
保護が必要な動物を約150種選び
動物の戸籍簿(血統登録)を作っています

それらの種について
最適な血統の組み合わせの中から
ペアリングする個体を選んで
キロルとミルクように同居させて
相性を見極め
赤ちゃんが生まれ
半年以上生存した場合には
繁殖成功…となります、

このように
動物園で飼育されている動物たちは
相性が合う合わないに関わらず
血統という名の遺伝情報を元に
ヒトにペアリング相手を決められています

比べて野生動物の世界はどうでしょうか
オスメスの出会いは「偶然」に左右されます
血統情報とか近親交配であるとかはお構いなし
環境に適応した動物のみが生き残り
適応できなかった弱い種や個体は
淘汰されるのみ

いわゆる「自然の摂理」というやつ

最近叫ばれる「生物多様性」であるとか
先に述べた「種の保存」なんてお題目は
ヒトのエゴのように思えてきてなりません

キロルだって
ミルクだって
野生の世界に生を受けていたら
お互いに出会わなかったのかも知れない
いや…出会って可愛い赤ちゃんが生まれたかも
いずれも「タラレバ」の空想であり
真実は謎のまま

さて…現実の世界に話を戻します

動物園における「種の保存」や
希少動物を動物園の間で貸し借りする
「ブリーディング・ローン」
国内のみならず世界中の動物園間の情報連携や
飼育員さんたちの飼育技術向上に向けた
不断の努力の成果により
仲睦まじいペアの写真が撮れたり
可愛らしくも無邪気な動物の赤ちゃんに出逢えたり

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そんな不断の努力の積み重ねにより
私たちは今日も動物園で素晴らしい体験ができている
有り難いことだし
動物園に関わっている、関わってきた全ての方々に
感謝したいと思う

以上がヒト目線のお話

さて…話は変わって
それでは…動物たちにとってそれって幸せなこと?
という観点ではどうだろう…

ヒトは例え結婚しても
「性格の不一致」「価値観の違い」とかいう理由で
別れる自由がある

一方で「ブリーディング・ローン」においては
お見合いのタイミングを決めるのも
お別れの頃合いを見計るのもヒトの役目
いや…そんなの当たり前のことだけど

相性が合う合わないって
どのように見極めるのでしょうか

行動や表情といった外見的なもの
医学的情報に基づくもの
(ホルモンの数値等で発情が来た、来ないとか)
いろいろと手段はあるようですが

今回みたいに
直前まで戯れ合っていたにも関わらず
(ように見えていた…だけかも知れない)
生死の問題に発展してしまう

ホッキョクグマという動物は
成獣のオスは体重300kgを超え
大きな個体になると400kg程度にもなります
(男鹿水族館の豪太とか)
一方でメスの体重は200~250kg前後

これだけ体重差があれば
オスが戯れたつもりの甘噛みやパンチが
一瞬で致命傷となることは
十分にあり得ると想定すべき
そんなことはプロの飼育員さんたちは百も承知
いわゆる「闘争」が起こった際に双方の生命を守るため
できる限りの対策をした上で同居に臨むわけですが
今回はそれでも生命を救うことができませんでした

闘争そのものは野生動物のオスメスの問題なので
その発生を人為的手段で予め防止することなんてできませんが
生命を守れなかったことについては
ヒトの責任となるでしょう

だって同居させたのは
ヒトなのだから

動物を飼育するということは
それぞれの生命に責任を持つこと
終生飼育主義を標榜する日本の動物園
それだけに
飼育員の皆さんは日々真摯に生命と向き合っているのです

でもね…
皆さんは今回のことで
飼育員さんを責めることできますか?

私にはとてもできません

このペアリングを成功させるために
日々この子たちと向き合い
健康な身体を保ち
この日まで病気もなく育ててくれたのだから

言い方に語弊があるのかも知れませんが
動物園におけるペアリングは「トライ&エラー」の歴史
相性が合うかは分からない(当たり前)けど
上手く行けば遺伝的多様性が維持できる…となると
まずは合わせてみる
ダメならペアを組み替える

その過程で発生したのが
今回のこと

成功して赤ちゃんが生まれると
「よかったね」「可愛いね」とかもてはやすけど
上手くいかないと
「何でこのペアにしたの」
「怪我したんだから同居なんてさせるな」

エラーはとことん批判される世の中
アンタはこの子たちと向き合ってもいないのに
(写真撮りに行く程度で向き合ってるなんて言うな)

部外者である私たちは
悲しむことこそあれ
とても飼育員さんや園の方々を批判することなんてできない

さて…10年生きたミルクの生涯とは
一体何だったのでしょう

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釧路で過ごしていた母のクルミが
男鹿で過ごす豪太に嫁入り
男鹿で生まれたミルクは釧路に戻り
クルミの母であるコロから続く貴重な血統を
次の世代に受け継ぐことを
予め決められていた子

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動物園で生を受けた子たちは
全て同じ使命を運命づけられて生きなければなりません

それでこの子たちは
本当に幸せなのだろうか

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「繁殖のためだけに生まれてきたわけではないだろうに」

動物たちの幸せ(あくまでヒトの尺度)を考えるとき
胸に刺さる言葉です

※日本の動物園における種の保存についての活動は
こちらをご覧あれ


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テーマ: 写真にコトバをのせて
ジャンル: 写真

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おやびん

Author:おやびん
ホッキョクグマをメインに各地の動物園で撮影した写真を紹介します。動物園の楽しさ(Paradise+Zoo=Paradizoo)をお伝えできればと思います。コンテンツの無断転載お断り。Twitter(@denari0529) & Instagram (polarbear_zoo)のフォローもお願いします!

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